ヘンデルのカンタータ  歌詞の意味を考える

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zoom RSS 「キューピッドの胸に思いが<キューピッド鳥猟師になる>」

<<   作成日時 : 2013/10/03 16:10   >>

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今回の作品は、以前に取り上げた「キューピッドは知った」の前編に相当するもので、同じ小鳥くんが主人公です。二作とも歌詞に諧謔性がある優れもの。ヘンデルの音楽は言うまでもなく、耳に心地よいものになっています。

「キューピッドの胸に思いが<キューピッド鳥猟師になる>」
(Venne voglia ad Amore<Amore uccellatore>)HWV176


本作品と後編「キューピッドは知った」の歌詞は、それぞれが完結した話になっているので、単独でもおもしろいのですが、前編・後編続けて読むとさらに愉快になります。作品番号もHWV176と175、偶然ではあるけれど隣り合ったものです。
2編しかないですけれど、まあシリーズ物と言えるでしょう。(勝手に)名づけて「名無しの小鳥シリーズ」。
キューピッドはヘンデルのカンタータの歌詞にしょっちゅう登場しますが、シリーズ物とは考えにくいし、クローリやフィレーノが出てくる作品も多々ありますがそれらも同じことですね。
カンタータ作品中、このようにシリーズとして考えられるものは、他には多分ないと思います(全部の歌詞を確認できたわけではないですが)。

「キューピッドは知った」の記事で、明確な作曲年代は不明、作詞者の名もわかっていない、という意味のことを書きました。しかし Ellen T. Harris女史によると、二作とも1707年にローマで作曲され、作詞者はおそらくオットボーニ枢機卿だろう、ということです。

同じ記事で、「最初は主人公が人間の若者であるように思わせて、後半になって主人公は実は小鳥と種明かししている」といった意味の記述をしています。しかし、前編である本作品を見てから後編の「キューピッドは知った」の歌詞を読むときには、すでに主人公は小鳥だとわかっているので、上の記述は正しくないことになります。
この記事を書いた時には、本作品のような歌詞が存在することを知らなかったのですね。
知らぬこととはいえ、正しくない記述をしたことについては、この場を借りお詫びして訂正させていただきます。

この歌詞のカンタータが存在することを知ってからは、その音源をずっとさがしていました。なかなか見つからなく、録音されたことがないのかも、とも思いましたが、今般HMVの商品リストの中から掘り出してきて購入できました。
買ったCDは3枚組です。再発売物で価格がそんなに高くなかったのは幸いでしたが。

アルト用の作品で伴奏は通奏低音のみ、演奏時間は約6分かかります。


歌詞大意。

<Recitativo>んんんんんんんんんんんんんん<レチタティーヴォ>
Venne voglia ad Amoreイイイイイイイイイイイイイイイイイキューピッドの胸に思いが芽生えた、
di far l'uccellatore,イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイi鳥猟師になりたいという思いが。
di cappelli castagniイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイそこでヤツは栗色の髪や
biondi e neri tessèイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイブロンドや黒髪を使って
di rete un paio;イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ一対になったネットを編み上げた。
di poi sul verde colle di speranzeイイイイイイイイイイさらに緑濃い希望が丘に
aggiustò il paretaio;イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ隠れ場所を置き、
vi fece il bosco e la sua cappanetta;イイイイイイイそのあたりを森にして小屋まで建てた。
di fresca mortellettaイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ鳥の止まり木になるギンバイカの若木も
tagliò d'intorno tutti i posatoi,イイイイイイイイイイイイみんな切り倒してしまいやがった。
provedè le centine, i tiratoiイイイイイイイイイイイイイイ跳ね木や張り糸、
e tutti gl'altri arnesi,イイイイイイイイイイイイイイイイイイイその他の器具類はすべて備え、
né stentò per trovar i contrappesi.イイイイイイイイ釣合いを取る錘もあるのが見て取れた。

<Aria>んんんんんんんんんんんんんんんんん<アリア>
Pose Clori ed Amarilli,イイイイイイイイイイイイイイイイイイヤツはクローリとアマッリッリと
Eurilla, Iole e Filli,イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイiエウリッラとイオーレとフィッリを
nelle gabbie per uccelli.イイイイイイイイイイイイイイイイイ鳥かごに入れた。
Occhi, guance, labbra e petti,イイイイイイイイイイイイi眼や頬や唇やオッパイが
a un fuscel legati e stretti,イイイイイイイイイイイイイイiすぐそばの小枝に来る小鳥に対して
gli servivan di zimbelli.イイイイイイイイイイイイイイイイイイ囮として働くようにしたのだ。

<Recitativo>んんんんんんんんんんんんんん<レチタティーヴォ>
Amor gli maneggiava così bene,イイイイイイイイイイイキューピッドはうまく按排して配置したので
che gli uccelli per forzaイイイイイイイイイイイイイイイイイ小鳥たちが隠れたネットに
calando nelle sue reti nascose,イイイイイイイイイイイ落ち込むのは避けられず、
retate ne facea maravigliose.イイイイイイイイイイイイiヤツはまんまと捕えることができた。
Un giorno anch'io entraiイイイイイイイイイイイイイイイイiある日俺も入り込んでしまったのだが
ma per mia buona sorte,イイイイイイイイイイイイイイイイiツキに見放されず
per una maglia rotta, scapolai.イイイイイイイイイイイイ編み目のほつれから逃げ出せた。

<Aria>んんんんんんんんんんんんんんんんん<アリア>
Or ch'io sono accivettato,イイイイイイイイイイイイイイイ捕まってしまった日にゃ
ei zimbella, io me la rido.イイイイイイイイイイイイイイイイiヤツは嗤うし、俺にとってもお笑い草だ。
 Chiama Iole, chiama Filli,イイイイイイイイイイイイイイイイイイオーレは呼びかけてくる、フィッリもいらっしゃいと言う、
 canta Clori ed Amarilli,イイイイイイイイイイイイイイイイイイiクローリとアマリッリは歌いだす、
 Io sto sodo al macchio ne e non me fido.イイイイだが俺は茂みに隠れたままで、ヤツらを信じちゃいない。
Or ch'io sono・・・(DA CAPO)イイイイイイイイイイイイ捕まって・・・(ダ・カーポ)

<Recitativo>んんんんんんんんんんんんんん<レチタティーヴォ>
Talora con speranza di scappare,イイイイイイイイイイ時には、また逃げられるかもしれないから
io vorrei rientrare;イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイもう一度中へ入りたいとは思う。
ma poi meglio pensando,イイイイイイイイイイイイイイイイiだがその時はよく考え
e me stesso sgridando,イイイイイイイイイイイイイイイイイi俺自身を叱ってる、
io dico che per me saria finita,イイイイイイイイイイイi一巻の終わりだぞ
se trovassi la maglia ricucita.イイイイイイイイイイイイiネットが補修されてるとわかった時には、と。


タイトルにある「uccellatore」とは、「鳥を専門に捕まえる猟師」というような意味です。猟師と言っても、女神ダイアナのように猟犬を使い、弓矢で鹿やいのししを狩る猟師とは異なる守備範囲のものです。
モーツァルトの「魔笛」に出てくるパパゲーノは、オレは「Vogelfänger」だ、とドイツ語で言っていますが、これと同じような意味だと思います。うまく日本語に対応させられる言葉がないので、「鳥猟師」とでもせざるをえないのです。

現代では鳥の狩りには散弾銃が使われますが、そんなものはない昔には鳥は網で捕るしかなかったのです。
霞網というものもあって、これは鳥に見えにくい細い糸で編んだ網を空中に張って、飛来する鳥を絡め取ってしまおう、というものですね。霞網は現在では、学者が研究のためのサンプルを捕獲すること以外は、一般的に販売・使用を禁止されています。
キューピッドの時代に銃などないので、鳥を捕まえようと思ったら、第1曲のレチタティーヴォの3〜5行目のように、ブロンドや栗色や黒い髪を使ってネットを編むしかなかったのです。

9行目の「mortelletta」は英訳では「myrtle」、ギンバイカのことです。辞書にはギンバイカは「mortella」と出ていますので、これは「小さなギンバイカ」でしょうか。
ギンバイカは以前にも出てきました。「スミレとバラが」の歌詞の中にあります。葉にハーブのような芳香があり、ローマ時代から薬効がある植物とされてきたそうです。
下の画像はギンバイカの木。あまり大きくならないようですが、小鳥くらいなら止まれます。その木をキューピッドはみんな切り払ってしまったというのですが、これはワナの近くに止まってじっくり観察されたら仕掛けがばれて困る、と考えたのでしょう。
画像


11行目の「centine」(これは複数形で単数形は「centina」か)は辞書にありませんでした。英訳では「bows」、独訳でも「Bögen」で、いずれも弓です。「弓形に湾曲したもの」という意味でもあるかもしれませんが、普通の弓ではありえません。
メカニカルなセンサーのようなものだと考えられます。ここでは「跳ね木」としておきました。
獲物が入ってきてこの「centine」に触れるとそれが跳ね、生じた力が「tiratoi」を通じて「contrappesi」に伝わり、この「contra・・・」が落ちるとともに網が上からかぶさって獲物を生け捕りにする、といったような装置がセットされているのではないでしょうか。

このような装置を考えつき、設計し、現地で組み立てることができるキューピッドはかなり有能なエンジニアかもしれません。そういえば後編ででも、粘土の玉を撃ち出すことができる「超小型ポータブル投石器」のようなものを持っていました。これも自作した可能性があります。

第2曲のアリアで、クローリ以下ナイスバディの美女たちを囮に使っています。
この作品の主人公は小鳥ですが、これは若い男性を小鳥になぞらえているので、こういう囮は効果があるのです。眼や唇、その他魅力あるところを誇示するようにしたのでしょう。
それから、このアリアはめずらしくダ・カーポなしで終ってしまいます。

終曲はレチタティーヴォですが、ここでの語りがこの作品のハイライトです。こういう終わり方には心憎いものを感じますね。


参考資料
CD
・アクセル・ケーラー(カウンターテノール)、B.マテ(チェロ)、R.アルパーマン(チェンバロ)
 「GEORGE FRIDERIC HANDEL Solo Cantatas・Arias」 PHOENIX Edition 404(1995)

書籍
・ELLEN T. HARRIS「Handel as Orpheus」 HARVARD UNIV. PRESS(2001)




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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
これ面白い歌詞ですね。美女をエサに雄鳥を罠にかけるとは。
キューピッド君のいたずら心、ここに極まれりといった感じですが、それを察知して自分を戒めている主人公君もなかなかです。
centinaは辞書に「アーチ枠(アーチを作る時の仮枠)」「(木材・鉄材の)丸み」などとありました。
記事にもあるように、仕掛けを構成する部品の一部なのでしょう。

アクセル・ケーラーは、ヘンデルのオペラ・アリア集を持っていますが、イタカンも録音してたとは知りませんでした。
彼はヘンデル・オペラの演出もやってたんですよね。
REIKO
URL
2013/10/04 18:02
REIKOさん
>自分を戒めている主人公君もなかなか
そうです、衝動に身をまかせないのは立派といえます。その彼も後編ではつい油断して捕まってしまうのですが。
>centina
ご教示ありがとうございます。わたしの推測は、当たらずといえども遠からず、だったので、まあよかったです。

>アクセル・ケーラー
わたしにとっては初めて聞く名前でしたが、結構うまい人だと思いました。オペラの演出もやっていたとは、なかなかの才人なのですね。
koh da saitama
2013/10/05 12:01

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