ヘンデルのカンタータ  歌詞の意味を考える

アクセスカウンタ

zoom RSS 「楽の音鳴らせ、お祝いしよう」

<<   作成日時 : 2017/04/09 13:06   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

「楽の音鳴らせ、お祝いしよう」(Echeggiate, festeggiate)HWV119

この作品はかなり規模の大きいもので、ギリシャ神話の5人の神々がレチタティーヴォやアリアを歌っているようです。「ようです」というのは、音源も信頼できる完全な歌詞も見つけることができなかったから。
いつも参照しているハリス女史の著書には以下のように書かれています。

<規模の大きいセレナータである「Echeggiate, Festeggiate 楽の音鳴らせ、お祝いしよう」 (以前には断片的で順序の狂った「私ャくたびれたよ Io languisco」として知られていた) では、ハプスブルク家のカール大公がスペイン王カルロスV世として即位すること、を見込んで祝っている>

「セレナータ」というのはいわゆるドラマティックカンタータ(複数登場人物の対話があるもの)の一種で、慶事や表敬など儀礼的な機会に演奏される音楽、といったような意味で用いられているようです(下記ヴォルフ+コープマンの著書による)。

ここで言及されている「以前のもの」とはウェブ上にある歌詞「Io languisco fra le gioie」のことのようで、「断片的で順序の狂った」ものらしい。そうするとこれは信頼できないと思われるので、ここに引用することは控え方がいいでしょう。
結局のところは、作品中の2曲だけですが録音されたCDがあったので、イタリア語歌詞はそこから引用させてもらうことにしました。
画像



このCDにはタイトルどおり、ギリシャ神話に題材を取ったオペラ・オラトリオ・カンタータからのアリア、デュエット、レチタティーヴォアコンパニャートと、序曲などの器楽曲が併せて収録されています。
といってもこの作品「楽の音鳴らせ・・・」については、歌詞内容は神話と関係なく、神話に登場する神々の名へ適当にレチタティーヴォやアリアを当てはめているだけなのですが。つまり、勝手に断りもなしに神々の名前を借用しているのです。まあ、断るといっても誰に断ったらいいのかわからない、ということはあるでしょうが。
出演している(させられている)神々は、下記歌詞にあるジュピターとミネルヴァの他、ジューノー、マーキュリー、アストライアの計5名であるとのこと。

この作品で歌われる歌詞の背景にあるものはスペイン王位継承戦争です。この戦争は簡単に言うと、

<スペイン王フェリペW世の後継者として、フランスのブルボン家がアンジュー公フィリップをフェリペX世の名で即位させようとした。それに対しオーストリアのハプスブルク家は皇帝の弟カール大公をスペイン王カルロスV世に、と譲らず、後押しする英国・オランダとともにフランス・スペインと戦争状態となった。
ところがオーストリア皇帝のヨーゼフT世が1711年に急死し、カール大公がその後を継いだので、大勢が「スペイン王はフェリペX世でしょうがないか」となって、戦争は終結に向かう>

というようなものですね。

1710年にロンドンで作曲されました。
ハリス女史の言うように、「カール大公がカルロスV世として即位することを見込んで」作詞され(作詞者の名は不明)、ヘンデルに作曲が依頼されたのでしょう。そして即位があれば直ちに演奏してお祝いしよう、との手筈になっていたのかもしれません。ジュピターが輩下の神々に「今日だけはドンチャン騒ぎしてもいいよ」と許可を出すほどめでたい日になる予定だったのはあきらかなこと。
ところが1711年にはその見込みがはずれて思ったようにならず、この作品もパーになってしまったのです。

まあ、一種の予定稿のようなものだったのか。予定稿というのは催事などの記事を前もって、そうなるはずと見越して現在進行中のように書くものですね。オリンピック開会式の前日に「国立競技場の上空は雲ひとつなく晴れ渡り・・・」などと記事にしておくやつです。
あたりまえのことながら、当時は演奏する機会もなかったはず。

2曲だけの抜粋ですが歌詞の日本語大意を書いておきます。

画像


抜粋なので、これだけではやや意味が不明かもしれません。
要は「(カルロスV世の陣営によって)敵対勢力が滅ぼされたからには、世の中は平和になり酷い出来事もなくなる。(カルロスV世の)高貴な心は名誉だけを望んでいる。」というようなことを、ジュピターとミネルヴァの口を借りて述べているのです。
表敬のカンタータなどによくある、おべんちゃらというかゴマすりというか、そんな類の歌詞になっています。

デュエットB部分の原歌詞で、「月桂樹」と「オリーヴ」がスラッシュでむすばれているから、ジュピターとミネルヴァの一方が「月桂樹」、他方が「オリーヴ」と歌ってかぶせているのかと思いましたが、聴いて見るとそれぞれ「ソル アッローリ ウリヴィッジャンティ」と歌っています。ジュピターはメゾソプラノのロミーナ・バッソさんが、ミネルヴァはソプラノのクリスティーネ・カルグさんがそれぞれ歌唱を担当。

下の絵は、オランダの画家 Abraham von den TEMPEL(1622‐1672)の作品「Minerva Crowns the Maid of Leiden」。
画像

この歌詞の作者も、カルロスV世が絵のライデンの娘のように、ミネルヴァから月桂樹の冠を授けられるようなことを想像しながら作詞したのかも。
右端の若い男性は、マーキュリーだと思われます(翼の付いた帽子をかぶっているから)。ジュピターの代理としてこの場に出席しているのでしょう。

なお、この二重唱は1708年作曲(1706、1707年説あり)の「アミンタとフィッリーデ(Aminta e Fillide)」HWV83の終曲デュエットを転用したものです。

このCDの作品を録音しているアラン・カーティスさんは一昨年に亡くなっているのですね。CDの冊子を見るまで知りませんでした。ヘンデル作品の録音を精力的に行ってらしたのに誠に残念なことであります。この「MITOLOGIA」が最後の録音になった、ということです。



参考資料
CD
ロミーナ・バッソ(メゾソプラノ:ジュピター)、クリスティーナ・カルグ(ソプラノ:ミネルヴァ)
アラン・カーティス指揮イル・コンプレッソ・バロッコ「MITOLOGIA」 deutsche harmonia mundi 88875199812(2012)

書籍
1.Ellen T. Harris 「Handel as Orpheus」 HARVARD UNIVERSITY PRESS(2001)

2.クリストフ・ヴォルフ、トン・コープマン(礒山雅 監訳)「バッハ=カンタータの世界U」東京書籍(2002)

3.三澤寿喜「作曲家◎人と作品シリーズ ヘンデル」音楽之友社(2007)

なお、この三澤氏の本で、巻末ジャンル別作品一覧にある当作品のタイトルが「カルロ6世のためのカンタータ」となっているのは誤りですね。「カルロ3世」であるべきでした。オーストリア皇帝になった「カール6世」と同一人物ではありますが、即位しようとしたスペイン王としては3世。
この著書にケチをつけるつもりは毛頭ありませんが、誤りがそのまま他に引用されたりすることがあるので、ここに指摘しておきます。
ちなみにこの名前、スペイン語ではカルロス、イタリア語ではカルロ、ドイツ語ではカール、英語ではチャールズ、フランス語ではシャルル、日本語では・・・・さしずめ太郎か、ということになります。





テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
「楽の音鳴らせ、お祝いしよう」 ヘンデルのカンタータ  歌詞の意味を考える/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる